「亜希ちゃんじゃないか?」
「亮ちゃん?」
1年前。太一に付き添ってサッカースクールの練習を見学に出掛けた時、思いがけない男性に声を掛けられた。
高校の同級生の横田亮介だ。
「何しているの?」
「何してるって、俺、ここのコーチだよ」
「えっ、そうなの」
「それより、亜希ちゃんの方こそ、何をしているんだよ?」
「ふふふ、この子の付添よ」
「え、あれ、太一は亜希ちゃんの子供?」
「そうなのよ」
「へえ、そうか。これは奇遇だな」
「本当、信じられない」
こうして再会したのだが、二人には他人には言えない過去があった。
もう20年以上も前のことだが、高校1年の秋から付き合い始め、2年生の冬、クリスマス会でファーストキス。そして、高校3年生になる前の春休み、思いつめた横田に「あ、亜希ちゃん、ぼ、僕たち」と迫られ、ついに断り切れず「はい」と答えてしまった。だが、問題は場所。今ならば、ホテルを考えるが、当時は二人きりになれる場所といったら、誰もいない部室しか思い浮かばなかった。
二人で夕方の校内に忍び込んだところまではよかったが、サッカー部の部室を前に来ると、怖くなった亜希子が「やっぱりダメ」と尻込みしたが、「いいって言ったじゃないか」と横田は無理やり部室に連れ込まれた。
汗と石灰の臭いが立ち込め、裸電球の灯りが妙に眩しい。
亜希子は身を固くして、その場に立っていたが、横田はドアに鍵を掛けると、興奮してよろけながらも服を脱いで裸になった。オチンチンは既にピンピンに勃起している。
「お母さんに叱られちゃう」
亜希子は泣き出したが、横田は「亜希ちゃん、ぼ、僕、す、好きだ」と抱き付くと、「あ、いや、ダメ……」と抵抗するも、汚れたマットの上に押し倒され、服を脱がされた。
後は興奮して訳が分らなかったが、オチンチンを秘肉に挿し込まれた時、「痛っ……」と悲鳴を上げてしまった。
「亜希ちゃん」
「亮ちゃん」
服を着て部室を出ると外は薄暗くなっていた。二人はなんとなく大人になったと感じながら手を繋いで家路についた。
でも、ままごとみたいなものだった。「結婚しよう」なんて言ってたけれど、大学生になると、互いの時間が合わなくなって、自然消滅してしまった。
その横田がサッカースクールの主任コーチをしているとは、ただただ驚き。しかも、日焼けした顔、お腹なんか出ていない引き締まった体、夫とは大違い。何となく気持ちが高ぶったのも無理はなかった。
そんな二人の話を聞いていた太一は「ママ、横田コーチのお友だち?」と目を輝かせている。
子供には余計なことを考えさせてはいけない。すかさず、亜希子が「そう、そうなの。高校の同級生なの」と言えば、横田も「そうなんだ、太一。よろしくな」と合わせる。
亜希子が一回も欠かさずに練習に付き添ったのは、太一の成長を見守りたかっただけではなかった。
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