サッカーママと監督~火遊びの代償(第一章)

サッカーママと監督~火遊びの代償 第一章 サッカーママと監督~火遊びの代償

「太一、6年生なんだから一人でいけるよね。」
「大丈夫だよ。でも、ママ、応援に来てよ。」
「お弁当を作ったら行くからね。」

朝8時、藤本(ふじもと)亜希子(あきこ)は小学校6年の息子をサッカースクールに送り出した。

3つ年上の夫は昨年から四国のプラント現場に単身赴任中。だから、今は息子のサッカーに夢中。

41歳のベテラン、いや、まだ若い藤本亜希子選手、ボールを
受け、ディフェンスをかわし、シュート……

掃除機をかけながら、こんなこと思い浮かべていたが、時計を見ると、もう午前9時。

お弁当を作って、10時にはグランドに行かなくちゃ
早くしないと、お化粧する時間も無くなる

掃除機を止め、キッチンに向かう亜希子はすっかりクリスティアーノ・ロナウドになっていた。

「亜希子さん、こっちよ」

午前10時、河川敷にある少年サッカー場に到着すると、仲間のママたちは揃っている。

「ごめんなさーい」と手を振りながら、応援ベンチに駆け寄ると、「太一君、6番のビブスを付けてるから、11時の試合、きっと先発よ」と、同じママ友の米田(よねだ)啓子(けいこ)が教えてくれた。

亜希子はサッカーを全く知らなかったが、息子の太一がサッカースクールに通い出してからというもの、練習に付き添っているうちに、今ではすっかりサッカー通になってしまった。

「太一、ママよ。頑張って!」

太一はちょっと恥ずかしそうに右手を少し上げたが、他のママたちの応援はもっと凄い。

「雄介! シュートでしょう!」
「弘、蹴っちゃえ!」
「ねえ、コーチ! うちの子の方が上手よ!」

先日、サッカースクールから「保護者の皆さまへ」という手紙が届いた。練習中も試合の時も、子供たちが委縮しないように怒鳴ったり、大声で指示をしたりしないで欲しいというものだったが、ママたちはそんな手紙があったことなどお構いなし。
しかし、名前を呼ばれた子供が次々にミスをやらかしてしまった。

「あの、すみません。練習に集中できないので、少し静かにお願いします」

とうとうアシスタントコーチがママたちのところに注意しに来たが、こんなことでへこたれるママたちではなかった。

「叱られちゃった」
「ふふ、あのコーチ、啓子さんに気があるのよ」

アシスタントコーチは「ダメだ、これは」と肩をすくめて戻っていった。

その時、クラブハウスの方から「藤本さん、ちょっといいですか」と呼ぶ声がした。見ると横田監督だ。

「何かしら?」
「太一君が先発だって言われるのよ。行ってらっしゃい」

誰でもそう思う。ママ友の沢田さつきが「おめでとう!」と背中を押してくれた。

だが、そんなことではない。クラブハウスに入った亜希子は「グランドでは声を掛けないでと言ったでしょう」と詰め寄った。

実は二人は元恋人同士。だから、「亜希ちゃん、怒るなよ。これ、誕生日のお祝い」と言えば、亜希子の顔にも笑みが浮かぶ。

「えっ、覚えていてくれたの?」
「亜希ちゃんのことなら何でも知っているよ」
「ありがとう」
「だから、ね、いいだろう」
「ダ、ダメだったら、もう……」

もうすぐに試合が始まると言うのに、ソファーに倒れ込んだ二人は「いいじゃないか」、「ダメだったら」と言いながら、互いの体を弄り始めていた。

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サッカーママと監督~火遊びの代償

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