「これ、届いたけどなぁに?」
休日の午後。頼んだ覚えのない荷物が届いた。
宛名には同棲相手で彼氏の一樹の名前が書いてあり、手に持っていた段ボールを彼に差し出して興味本位で中身を聞いてみる。恐らく何かをネットショッピングで購入したのだろうが、段ボールが軽すぎるせいで中身が見当もつかない。
「ん…?あぁそれ多分、莉奈の下着だよ。莉奈に着てもらおうと思って買ったんだ」
スマホを弄っていた一樹は私の差し出した段ボールをちらりと見やってから穏やかに言った。
「え、そうなの?」
一樹によれば、この中身はどうやら私へのプレゼントらしかった。それにしても、一樹から実用品やアクセサリーを貰うことはあっても、下着のプレゼントだなんて初めてだった。いやに一樹が楽しそうな顔付きになったのを訝しく思いながらも、『開けてみて』としつこく催促されるものだから、仕方なしに封を切った。
「…ん?これ?」
包装を解けば、真っ黒な紐やレースのあしらわれたものが2つ現れた。他には何も入っていないところを見るに、これが一樹の言う下着らしい。しかし、見たこともない形をしている。私はその下着らしいものを不思議に思いながら、その中の適当な紐を指で摘んで持ち上げると、それはハンカチを持ち上げた時のようにとろりと垂れ下がって形を留めない。
「うーん、そっちはブラジャーだね」
一樹はこれがブラジャーだと言ったが、全くもってそんな風には見えない。明らかに布の面積は足りないし、少なくとも私が普段着けているようなものとは全く違う。そもそも、これが本当にブラジャーだとしても、どうやって着るのか見当もつかない。
「ほら、莉奈。こう着るんだよ」
紐を持ち上げた体勢のまま固まってしまった私をみかねて、一樹は自分のスマホの画面をこちらに差し出して言った。そこ映し出されていたのは、乳房どころか乳首すらも丸見えになった女性だった。
「え…っ、ちょっ、ちょっと何?!」
急にアダルトめいた画像を見せつけられて、のけぞり、声を大きくしてしまう。私自身、エッチなことに興味が無い訳では無いが、いきなりそういうことをされると驚いてしまっても仕方ないだろう。
「そのブラジャーの着け方だよ。ほら、こんな風にするんだよ」
一樹は驚いている私の頭を宥めるように撫でながら、画像の一部を指さして言う。よく見れば、先ほどの画像はランジェリーサイトのもののようで、確かにその女性は裸という訳ではなかった。可愛らしいレースやリボンがあしらわれた下着のようなものを身に着けている。しかし、大事な部分はひとつも隠れていない。乳首や陰部は丸出し。本来のブラジャーで例えるならば、淵の部分だけをかたどったという感じだろうか。
「これを私に着ろって…?」
スマホに映る女性の余りに扇情的すぎる格好に私は怖気づいた。今まさに私の手に持つこの紐が画像のものと同じであるならば、私もこの格好になるわけだ。一樹が喜ぶことなら何でもしてあげたいが、流石にこれはどうなのだろう。
「莉奈なら絶対似合うと思って」
一樹は俯いた私に、やけに自信満々に黒い紐のようなそれをぐいぐいと押し付けてくる。一樹はこう言ってくれているが、画像の女性のようにスタイルが良いわけでもない私が着て不格好にならないだろうか。普通の女性である私が着てもおかしくないだろうか。
「莉奈、一度だけでもいいから着てみてよ」
「…うん、わかった」
思い切れない私に、しつこいほどの熱量で懇願する一樹の押しに負け、しぶしぶながらこの下着を着ることを了承してしまった。しかし、改めて見ると、乳房を包んで隠すはずの布の面積は無いに等しく、ほとんどが紐やレースでできている。どこに腕を通せばいいのかすらもわからない。
そんな風におろおろとしながらも、一樹のアドバイスもあって何とか身につけることが出来た。特徴的な作りをしているせいか、この類のブラジャーは普通のもののようにサイズも細かく分けられていないようで、私の胸のサイズに詳しくない彼が頼んでも身に着けられるようで安心した。
「ふぅ…、着けられたはいいものの、これやっぱり恥ずかしいね…」
不格好にならないか不安だったが、鏡を見ればかなりサマになっているのではないだろうか。羞恥は抜けないけれど、開放的な気分になれるし、一樹はしきりに私の姿を褒めちぎってくるし、正直なところ悪い気はしない。
「こっちも穿いてみてよ」
同じく真っ黒な紐でできたもう一つのものを渡される。こちらはパンツのようで、同じように紐やレースでできているおかげで身に着けるのに手間取ってしまう。こちらもブラジャーの時と同様に見よう見まねで脚を通した。リボンを結ぶのを手伝ってもらったりしてようやく、上下揃いのセクシーランジェリーに身を包んだ私が完成したのであった。パンツの方は紐パンに近いが、肝心のクロッチ部分がなく、陰部が丸出しだ。普段隠している部分が外気に触れているだけで、慣れないせいか妙な気分になってくる。
「莉奈、すごく可愛い…」
自分の状況に戸惑う私を見つめて、一樹は感嘆の息を漏らして呟いた。一樹があまりに真剣に嬉しい感想を言うものだから、私は戸惑いなど吹き飛んで一気に照れくさくなる。
「…そ、そんなにじっくり見ないでよ…」
一樹は私の痴態をじっと凝視し始める。しかし、冷静に考えれば、この下着は何も着ていないのと変わらないような気がする。紐も柔らかな素材でできていて、着ている感覚がほとんどない。寧ろ、わざと恥ずかしい部分だけを見せつけるような格好になっているせいで、露出している感覚になって余計に羞恥を煽られる。
「あ…っ、うぅ…っ。そんなにじっくり見ないで…」
一樹の視線は乳首に注がれているのをひしひしと感じて恥ずかしい。ブラジャーの方はカップの真ん中がぱっかりと開いていて、その間から乳首が顔を出している。この下着を着て欲しいと言ったのは一樹なのに、こうしていると自分から彼に淫らな部分を見せつけているような気分になってくる。
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