「わぁ、莉奈ってば、それホント?!あんた、意外とダイタンなとこあるんだね!」
「ち、ちょっと由佳!違うよっ、彼が勝手に買ってきただけだから」
カフェ。私は親友の由佳とともに紅茶を啜りながら話をしていた。ここは私たち2人にとってお気に入りの隠れ家的なカフェで、お互いの近況報告をするのによく利用させてもらっている。路地の奥のひっそりとした場所にあり、紅茶も絶品とあって落ち着いて話をするのに最適なのだ。
「それにしても、莉奈がねぇ…」
今日は平日の昼間ということもあって、店内には私たちしかいないため、多少の下世話な話は問題ないのだが。この話を由佳に振ってしまったことを私は早くも後悔し始めていた。どんな話をしたかといえば、内容はこうだ。
彼氏である一樹が私に内緒でオープンブラとオープンクロッチを買ってきていて、それを使ったセックスが今までで1番燃え上がったということ。セクシーランジェリーはスタイルが良くて性欲の有り余った人だけが買うものだと思い込んでいたが、そうではなかったということ。パートナーとセックスレスだと言っていた由佳もランジェリーを買ってみてはどうかということ。
「すごぉい!それで、そのあと、違うランジェリーには挑戦してないの?」
話のタネになるかと軽い気持ちで話を振っただけだったのだが、思いのほか由佳がこの話題に食いついてしまったというわけだ。
「そ、そのあとは何もないよ…。普通にセックスはするけどさぁ」
「…えぇ?でもランジェリー、結構よかったんでしょぉ?」
由佳はニヤニヤと笑いながら、テーブル越しにぐっと私に詰め寄って囁いてくる。だいたい、彼氏との関係に悩んでいる由佳にランジェリーを勧めてあげようとしただけなのに、どうして私の性行為の話にすり替わっているんだろうか。
「…良かったのは、そうだけどさぁ…」
「そういう下着系以外のテッパンはナースとかメイドじゃないの?私も詳しくないけどさ」
私は呆れた顔で由佳を見返すと、由佳はまだこの話を続けるつもりらしく、ノリノリで私に着せるランジェリーを本気で思案し始めている。
「オープンブラ、だっけ?そんな大胆なの着れたならコスチューム着るのも余裕だって!」
「もう、由佳ってばぁ…」
由佳の勢いに気圧されながらも、何だかんだ私は彼女に乗せられてしまいつつあった。確かに前回オープンブラを着けた時も、初めは『私なんかがこういうのは恥ずかしい』とかなり戸惑ったが、実際に着てみればそんな感情を忘れるくらいに2人で燃え上がってしまっていた。
「莉奈は美人系だし、ナース似合いそう!あー、でもメイド服も捨て難いなぁ〜」
「もうっ、由佳に見せるためじゃないんだから」
楽しそうに話を進める由佳に反論しながらも、ちょっと買ってみてもいいかもな、なんて私は思い始めていた。由佳は快活でいつも私を引っ張ってくれる存在で、その関係はこんな時でも変わらないんだな、と僅かに口元が綻んだ。
「莉奈!ほら、こんなのはどう?うわっ、ナース服だけでこんなにあるんだー!」
「だからぁ、ほんとに着るって決まったわけじゃ…」
由佳は楽しそうに自身のスマホの画面をこちらに向けて笑っている。由佳ってば、完全に面白がっているようだ。
「ほら、いいから見て見てっ!」
目の前にスマホをずいと差し出され、渋々ながらその画面に視線を落とす。そこには何種類もの可愛らしいコスチュームがずらりと並んでいた。なるほど、本物と見紛うほどの本格的なナース服もあるが、水着のように薄い布でできていたり、大胆に胸元や背中がぱっかりと開いていたりするものがほとんどのようだ。それでも、大抵は白や赤を基調としていて、赤十字のマークがあしらわれているおかげで、それがナース服だとひと目でわかるようになっている。
「ほんとだ…。こんなに種類、あるんだぁ」
最初は話半分で由佳の差し出してきたページを眺めていたのだが、そのあまりの種類の多さに思わず驚いてしまう。私もいつの間にか自分のスマホでも検索してしまっていて、2人してどれがいいだのこれがいいだのと評議を始めてしまった。
「…はぁ…。ホントに買っちゃったじゃない…」
私はその場の流れで一着のナース衣装を買わされてしまっていた。それもかなり大胆なデザインのもの。由佳は他人事だと思っているのか、乳首や陰部も丸見えなものを勧めてきたが流石に恥ずかしすぎる。というか、それだと前回のオープンブラなどと変わらないような気がする。私は由佳の決死の押し売りを振り切り、少し煽情的ながらもナース服としての体裁は保っているようなものを購入した。
「私も買ってみようかな…」
由佳が私の購入画面を覗き見ながら独り言ちていたので、その後の時間は由佳に似合いそうなものを探してやった。
「ねぇねぇ、由佳はこっちが似合いそう~ッ!」
「ちょっと莉奈!あんた、自分のときはあんなに恥ずかしがってたくせにぃ!」
きゃあきゃあ言いながらお互いのものを選ぶのもなんだか学生に戻ったみたいで楽しい。着たその場で楽しむのももちろんだが、選ぶ楽しさもあるのか、と妙に感心してしまった。
「はぁ…、いざ本番となると緊張するなぁ…」
ある日の夜、私は彼氏である一樹の帰りを待っていた。由佳と選んだコスチュームが届いた日の夜だ。カフェで選んでいた時は何だかんだ盛り上がったが、実際にそのコスチュームを身につける日を迎えてみると緊張してしまう。ダンボールを届けてくれた宅配便のお兄さんには中身が何か分からないように梱包されていたが、中身が分かっている私はお兄さんから荷物を受け取る時に何だかソワソワとしてしまった。
「一樹、どう思うかな…」
そろそろ一樹が帰ってくる頃だが、不安と緊張で心臓がバクバクしてしまっている。前回、私がセクシーランジェリーを着たのは一樹に頼みこまれたというところが大きかったが、今回は一樹に頼まれたわけでもなく、私が自発的に購入して、更にはそのコスチュームを着て彼の帰りを待っているのだから、多少は緊張したって仕方ないと思う。
「莉奈、ただいまぁ」
そんな風にもじもじとしながら落ち着きなく考え事をしていると、一樹が帰ってきたようだ。玄関のドアが開く音がしたと同時に私は意を決して玄関へ走り、帰宅した一樹をそのままの格好で出迎えた。
「…り、莉奈…?」
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