「なんだ、これ…」
拓海は呆然と、部屋で見つけたものを目の前で掲げた。
それはいわゆるランジェリーと呼ばれるもので、上下一式が揃っていた。
花が刺繍されたブラジャーは緻密ながらも素肌が大きく見えるレース生地で、仮に身につければ乳首周りがスケスケになることは想像に容易い。
加えてなによりも股間の部分が大きく開いており、足を開けば尻奥と性器が丸見えになるようにデザインされたものだった。
拓海としても、そういった下着が存在していることは、一応把握している。だがその下着が、恋人の花蓮のタンスから出てきたことが信じられなかった。花蓮は普段は慎ましくおしとやかな恋人だ。そんな彼女にあるまじき下着に、ただただ拓海は言葉を失う。
「なんで、花蓮がこんなものを…いつのまに買ったんだ?」
この下着を見つけたのも、偶然彼女の使っているタンスから大きくはみ出ていたためだ。
拓海が衣類をしまう棚と、花蓮の同じ用途のタンスは、同じ部屋に横並びで置かれていた。
今朝は拓海は、いつもよりも早く自宅に帰宅することが出来ていた。
普段から仕事で忙しく、常に花蓮の方が先に家に帰っていた。少々詰めが甘いながらも隠されるようにしてしまわれていたことから、明らかに拓海に見られたくないものであることは容易に想像出来る。
「まさか、あいつ…誰か、他の男と…?」
最悪の予感が、拓海の胸で弾ける。
あの花蓮に限ってそんなことはないと思ったが、そうとしか花蓮がこのような下着を買い込む理由の説明がつかないのも、また事実だった。
(…あいつが帰ってきたら、どんな顔をすれば良いんだ…)
悶々とした気分のまま、拓海は玄関へと降りる。
だがそこで、扉の外から車庫に車が止まる気配がした。花蓮が帰ってきたのだ。いつも花蓮よりも遅く帰ってきていたため、彼女の正確な帰宅時間を知らなかった拓海だが、常はこのくらいに帰宅していたのだろう。
だが今、彼女と鉢合わせるのは非常にまずい事態だ。何より拓海が早々に帰宅していることを、花蓮には知らせていない。
拓海は慌てて二階に戻ると、自分のタンスの中に隠れた。
程なくして思った通り、下から玄関の鍵が解錠される音が聞こえてくる。やがて扉が開けられ、花蓮が部屋へと帰ってきた。
息を潜め、拓海はそっとタンスの隙間から花蓮の姿を盗み見る。
自分のタンスを開けて着替える花蓮に、なんら変わりはない。ただいつもより表情は華やいでおり、心なしか笑みを浮かべて浮き立っているようにも思えた。
花蓮は拓海には全く気づかず、自身のタンスから何かを引っ張り出す。
「…!」
拓海は息を飲んだ。
その手に握られていたのは、例の如くあの高級ランジェリーだった。それどころか花蓮は手にしたオープンクラッチに、見たこともないほどうっとりとした顔を浮かべた。それは慎ましいと思っていた花蓮の見てはいけない一面を見てしまったようで、拓海の中でひきつるような痛みが生まれる。
花蓮は服を脱いで一旦は全裸になり、丁寧な手つきでオープンクロッチと、ランジェリーを身につけていく。
オープンクロッチに足を通せば、尻の割れ目が扇情的に彩られる。よもや男を誘う魔性の色気だ。
(やっぱり、花蓮は…)
拓海さえ見たことのない顔でオープンクロッチを手に微笑んだ花蓮に、拓海は浮気相手の男が妬ましくなる。なにより、花蓮に対して激情を抱いた。
(あんな顔を、いつも花蓮は知らない男にしているのか。そんなに、俺のことが満足できなかったのかよ…花蓮は…!!)
浮気相手の元にその淫靡な下着を晒し、あの笑顔を向けるのだろうか。そう思うと、拓海はいてもたってもいられなくなる。知らない間に裏切られていたという怒りが、湧き上がってくる。
花蓮は一切拓海には勘付かず、そのまま下着の上に一度は脱いだ服を羽織る。
「これでよし…と」
ランジェリーを衣服で隠したところで、部屋を出て行こうと背を向けた花蓮に、ついに拓海の中で堪忍袋の尾が切れた。
「待てよ、おい!」
タンスから飛び出た拓海は、驚きで振り返った花蓮の方を乱暴に掴んだ。目を白黒させる彼女を無理に手繰り寄せ、拓海は壁に追い寄せる。
「ど、どうしたの…?拓海さん、いつ帰ってきていたの?これから迎えに行こうと思っていたんだけど」
「そんなことはどうでも良いだろ、なんなんださっきのあの下着は?なんであんなものを、お前が持っていたんだ!」
真っ先に例の下着を指摘され、花蓮はハッという顔つきになる。
「見ていたの…!?うそ…本当は隠していようと思っていたのに…」
あまりに無責任な花蓮の言葉に、カッと目の前が真っ赤に染まる。拓海は花蓮を睥睨した。
「ふざけるなよ、何が隠していようと思っていただ!?俺はずっと、お前を信じていたのに…!
「ご、ごめんなさい…まさか、そこまで怒るなんて…思っていなかったわ。ただ、拓海さんに喜んでくださるかと思って…」
「はぁ…?」
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