サッカーママと監督~火遊びの代償(第三章)

サッカーママと監督~火遊びの代償 第三章 サッカーママと監督~火遊びの代償

「太一、頑張って!」
今日も亜希子はグラウンドに駆け付けた。

「亜希子さん、熱心ね。だから、太一君は頑張るわよ」とママたちは感心していた。それは勿論だが、横田のことは絶対に秘密だ。

しかし、その熱心さは思わぬことに繋がった。

太一がサッカースクールに入って7ケ月。1月から新チームに切り替えるので、11月になると来年の役員の人選が始まる。理由はともかく、毎回欠かさず練習を見守っている様子が、ママたち全員から評価され、「亜希子さん、来年、会計幹事をやって欲しいな」と依頼された。

「えっ、私? 無理、無理ですよ」と断ったが、「だって、皆勤賞は亜希子さんだけ。他にはいないわよ」と押し切られてしまった。

しかし、スクールの会費徴収、毎週の練習時のジュース、コーチのお弁当等、それから、スクールからのお手紙、その用紙代、パソコンやプリンターの代金も会費から支払われるので、任されてみると、会計はやはり大変。

「引き受けなければ良かった……」と何度も思った。だが、他のママたちから「亜希子さんだから安心」と言われると、頑張らざるを得ない。

こうして半年が過ぎ、もう少しで夏休みとなる時、突然、監督が辞めることになった。

「転勤だって。そんなこと前から分っていたんじゃない?」
「急に言われてもねえ」
「代りに変な人が来たら、嫌よね」

このように、スクール内はざわついたが、結局、主任コーチの横田が監督に昇格することで落ち着いた。

亜希子にとっても、それは嬉しい。彼も、「監督になったけれど、これからもよろしくお願いします。君がいてくれるから僕も安心して監督を引き受けられる」と言い、おまけに「太一を試合に出すよ」と約束までしてくれた。

しかし、太一は5年生。6年生が主体だから5年生で試合に出れるのは1人か2人、それも抜群に上手な5年生に限ってのこと。ママたちの目は厳しく、依怙贔屓をすれば、「どうしてなんですか?」と、横田を突き上げるのは勿論、「何よ、べたべたしちゃって」などと、亜希子も睨まれる。

では、どうしたか?

「よし、2点リードしている。後半は5年生にもチャンスをあげる。沢田、藤本、用意しろ」

5年生では沢田さつきの息子、誠と米田啓子の息子、啓介は抜群にうまいので、沢田誠が指名されたことはママたちも納得だが、米田啓介ではなく藤本太一が指名されたことにママたちはビックリした。

「うまい子だけじゃなく、みんなが出るんだ。今日だけじゃない、次の試合もそうだ」

横田はそう言って、5年生には勿論、ママたちにも約束したが、その言葉にウソはなかった。

「今日は米田と金子」と、順に全員を試合に出し、5年生のママたちは喜び、彼を信頼するようになった。

だが、「好事、魔多し」と言うように、思わぬ出来事が、その歯車を狂わして行く。

9月、上期決算を控え、各月の会計書類をチェックしていた横田が首をひねった。

「亜希ちゃん、この領収書、スクールのかな?」
「ちょっと見せて……あの、プリンターのインクを購入した時のだと思うけれど」
「いや、それはこっちのだろう?」
「あっ、いけない。私が家のパソコン用に買った領収書だわ……」

これくらいのこと、間違えたら、間違えましたと言えば許してくれるのに、「亜希子さんだから安心」と言っているスタッフやママたちの顔が思い浮び、亜希子の顔はみるみる青くなっていった。

「どうしたらいいかしら」
「まあ、いいや。黙っていれば分らないよ。亜希ちゃんと僕だけの秘密ってことで、いいね?忘れちゃおう」
「でも、そんなことしたら」
「じゃあ、間違えましたって言うの? 自分の家の領収書を紛れ込ましたって言うの?」
「紛れ込ましたんじゃないわよ、ただ間違えただけ」
「間違えたって言えば、『あれはわざと紛れ込ましたのよ』と言うに奴が出てくる。だから、何にも言わないのが、一番。知っているのは、亜希ちゃんと僕だけだよ」
「でも」
「気にするなよ、今回だけなんだから」

どんなことを言われても間違えたのは事実だから、「間違えました」と言えば良かったのだが、「今回だけ」と言う言葉に、亜希子は押し切られてしまった。
うすぐに試合が始まると言うのに、ソファーに倒れ込んだ二人は「いいじゃないか」、「ダメだったら」と言いながら、互いの体を弄り始めていた。

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